2020年 05月 04日
それって安全ですか? |
最近の弁論会では多少なりとも自己紹介とい
うものが行われているような気がする。その流
れに便乗して今日は私も自己紹介から入りたい
。ご存知の方もいると思うが、私の出身は熊本
である。熊本と聞いて皆さんが何を思うのかは
図りかねるが、私が地元で一番影響を受けたと
いえることは水俣病に端を発する、いわゆる公
害の歴史である。小、中、高と総合の時間に必
ずと言っていいほど水俣病に触れ、実際に水俣
に出向いて水俣病患者本人やその親族からお話
を聞いたこともある。今でも水俣病の話を思い
出すと胸が苦しくなるし、公害とは許されざる
べきものだと感じている。そうした経験は私の
その後の進路に少なくない影響を与えるほどの
ものだったのだ。
そんな教育の中で、私が強く感じたことがあ
る。それは、化学物質というものは人々に利便
性をもたらす一方で、人間や、他の生物、果て
は環境といった点で何らかの悪影響を及ぼしう
るということである。そして、私たちはそうし
た化学物質に対して使わない努力や影響力の少
ないものを選ぶ意識が必要であるのだ。これこ
そが私のスタンスである。
では現代は安全なのだろうか。残念ながら、
現代にもそうした公害は蔓延っている。ここに
いる皆さんも無自覚なだけで公害の被害者かも
しれない。その公害というのはネオニコチノイ
ド系農薬による被害である。私たちの周りで使
われている農薬が私たち、特に発達段階の子供
たちや妊婦の方々に牙をむいているのだ。
本弁論の目的は、ネオニコチノイド系農薬の
使用によって生じる被害を明らかにし、その解
決を訴えるものである。
それでは、実際にこのネオニコチノイド系農
薬についてみていきたい。このネオニコチノイ
ド系農薬は害虫の神経に作用して強制的に興奮
状態にすることで害虫を駆除する殺虫剤である
。1990年ごろから使用が進み、日本での使用率
は一、二を争う。しかし、この農薬は強い神経
毒性や神経発達毒性を有している。そして、こ
の二つの毒性は人間の神経にも悪影響を及ぼし
ているのだ。欧州食品安全機関の研究によれば
、この農薬はアルツハイマー型認知症や、日本
でも難病認定されているパーキンソン病
、ADHDいわゆる注意欠陥多動性障害や自閉症
の要因となっている。アメリカでは小児科学会
が農薬を摂取することによる発達障害の危険性
に言及し、子供たちに対するジェノサイドだと
主張している。妊娠初期から乳幼児期までの期
間に農薬を浴びることで、子供たちは発達障害
を引き起こしている。近年、発達障害の増加が
叫ばれているが、その原因は心理的要因ばかり
ではない。こうした環境的要因も強く関係して
いるのだ。
では、どういった場所でネオニコチノイド系
農薬が使われるのか?この農薬は農地や林間部
での空中散布のほかシロアリやゴキブリの殺虫
剤やペットのノミ取りなどにも用いられている
。そうした農薬を吸い込んだ場合の方が、農薬
を使った野菜を食べるのと比べて危険視されて
いるため、私たちの身の回りでこの農薬を摂取
してしまう機会は非常に多いのが現状である。
更に、農地では農薬が通常の数百倍の濃度で
空中散布されている。散布された農薬は高濃度
の霧となって大気中に2~3週間漂い、近隣住民
の健康を害している。環境脳神経科学情報セン
ターによると、各国の単位面積当たりの農薬使
用量と発達障害の有病率には強い相関関係があ
ることが示されている。国内でも3歳児の尿中
を検査したところおよそ70%の児童からネオニ
コチノイドの成分が検出された。このことから
も分かるように、農薬の影響は広範囲にわたっ
ている。子供たちの安全を守るためにも、早急
な対策が必要なのだ。
こういった危険性に対して、EUではネオニ
コチノイド系農薬5種のうち3種を使用禁止とし
、アメリカではその成分を含む商品に対してネ
オニコチノイドを含むことの説明を記載するこ
とを定めている。一方で、日本はどうかという
と、日本はそうした国際的な流れに反して、ネ
オニコチノイド系農薬の残留農薬基準がEUの
基準と比較して極めて緩いものとなっている他
、空中散布で使用できる農薬の種類を増加させ
、希釈倍数の大幅緩和が行われている。
これほどまでに、危険性が世界で注目視され
ているのだ。ネオニコチノイド系農薬に対して
規制など何らかの対策がなされるべきではない
のか。
では政府は何故そうした立場に立っているの
か?日本弁護士連合会が今年2月に国会に提出
したネオニコチノイド系農薬に関する質問主意
書に対する答弁の中で、一日摂取許容量と短期
での経口摂取における急性参照容量の二つの残
留農薬基準による現状の体制は十分に安全性を
担保しており、ネオニコチノイド系農薬に関す
るEUでのヒトへの発達毒性の報告自体は把握
しているものの、日本としては、科学的に危険
が認められたわけではないという立場を表明し
ていた。簡略化すれば、ネオニコチノイドに対
して科学的に危険だときちんと証明されれば対
策を講じるが、現状では何の対策も講じないと
いうことである。
しかしそもそも、政府の安全性の根拠の元に
なっている残留農薬基準は適切とは言えない。
日本の基準は先に述べた一日摂取許容量の80%
を超えず、急性参照容量を下回るというもので
ある。しかし、実際には一日摂取許容量の80%
よりも低い量でも動物実験の際に行動異常を起
こすことが多数報告されている。つまり、基準
値以下でも身体に害を与える低用量作用が存在
しているのだ。現在の基準ではそうした毒性に
ついては調べられてはいないのが実情である。
こうした状況に対して私は2点の解決策を提
案する。
1点目、ネオニコチノイド系農薬に対して、
市民への影響が疑われる限りその規制を行うこ
と。現在ネオニコチノイド系農薬の危険性は世
界各国で案じられており、その危険性を裏付け
るような研究も増加し続けている。であるなら
ば、一つの明確な結論に至るまでの間その農薬
を禁止もしくは規制するべきだというのが私の
主張である。現状既に国内でも被害は起こって
おり、今のまま使われ続ければ、被害が拡大す
るのは必定である。そうなる前に対策を講じる
ためには、先手を打つ意味でも暫定的な対応が
必要なのだ。日本において、公害の被害が拡大
した原因の一つとしてしばしば挙げられるのが
初動の遅さである。そうした負の歴史から学ぶ
という意味でも、早めの対応が必要であろう。
しかし、ここまで見てきた政府のスタンスで
は、前述の解決策が行えるような社会的風潮に
はいたっていない。そこで、二つ目の解決策と
して、この分野に関して、消費者一人一人が興
味関心を抱いて知識を蓄え、声を挙げていくこ
とを主張する。無農薬や有機栽培の作物を望ん
でいる人が増加している現代、皆さんも多かれ
少なかれ自分の食べるものに関して関心を抱い
ていることだろう。しかし、今回取り上げたネ
オニコチノイド系農薬の実態に詳しい人は少な
く、現状に不信感を抱く人も少ないように思う
。だからこそ、消費者一人一人がこの問題に関
心を抱き、その危険性を訴えなければ、現状は
変わることはないのだ。声を挙げることでよう
やく政策的な対応がなせる状態に達することが
できるのだ。
冒頭の自己紹介でも述べた通り、私はでき
る限り農薬を使わない努力や、低リスクの農業
ができるような努力を継続すべきという立場に
立っている。皆さんには、基準にしろ、政府の
認可した農薬にしろ、絶対的に安全なものなど
ない、という意識を今一度思い起こしてほしい
。そして、すこしでも声を挙げていかなければ
ならないのだ。その努力こそが私たちに安全を
もたらすのである。まずは、疑う心を強く持っ
てほしい。皆さんも今日からふとした時に心の
中でこうつぶやいてほしい。「それって安全で
すか?」
by yuben2012
| 2020-05-04 10:32
| 弁論大会