第48回春秋杯争奪全日本学生雄弁大会「不港不掘」 |
「浅いんだよ!!!」先日、インターン先の国会議員から私に向けて発せられた言葉です。いったい何が浅かったのでしょうか。私の理念や考えや浅かったのでしょうか。それとも、終夜演練によって浅くなった眠りのことでしょうか。答えを探るためのヒントは、私の昔話の中に隠されています。
時はさかのぼり、約一年前のことです。我がふるさと、北海道苫小牧市の高校に通っていた私は、学校終わりのルーティンがありました。それは、行きつけだった港近くの公園で、停泊しているタンカーやフェリー、そして”沖に停まっているコンテナ船”を眺めながら、海風に当たって涼むことです。苫小牧市は太平洋に面しており、北海道の“海の玄関口”として、発展してきた日本でも有数の港町です。特に、苫小牧西港は、世界初の内陸掘り込み式港湾として知られ、先人たちが、砂浜と原野を掘っては削って、新たな臨海工業地帯の開発を実現しました。大好きな地元で気ままに自然を感じていた日々から約一年。地元の国会議員から聞いた言葉に私は驚愕しました。「日本の港は浅すぎる!」そう、冒頭の言葉は港の水深の問題を指した言葉なのです。苫小牧港は北海道の海の玄関口であるにもかかわらず、港が浅く、加えて横にも小さいため、船が次々と入ってくることはできません。私が苫小牧で眺めていた、”沖に停まっているコンテナ船”というのは、実は荷物の積み下ろし待ちで、ただ港が空くのを待っていただけだったのです。ただ、これは苫小牧港だけの問題ではありません。規模が大きいとされる名古屋港や神戸港なども、例外ではありません。日本の港は全国的に浅くて小さいのです!
この20年で、運送コストの削減や世界的な貿易量の増加により、コンテナ船の大型化が進んでいます。しかし、ほとんどの日本の港湾というのは、一昔前の基準で作られており、水深が、現在のコンテナ船の国際規格に対応できていません。唯一、横浜港だけは、その基準をクリアしていますが、日本で大きいとされている大阪港や神戸港も、国際規格から見ると、浅いというのが実情です。つまり、大型船が入ってこれる港というのがほとんどないのです。では、港が浅いと何が問題なのでしょうか。それは冒頭でもお話した、”港湾の沖待ち問題”です。沖待ちというのは、コンテナ船が着岸できるスペースがないために、沖合で待機せざるを得ないことを指します。この沖待ちは、船舶の遅延や損失の発生の原因となり、これが続くと、大量のコンテナが海上に滞留していることとなり、荷物の品質の低下や、商品が納期通りに届かないといったトラブルも起こります。ここで、博多港を例にとると、2018年は、年間で約800時間沖待ちが発生しており、待ち時間に10億円ものコストがかかっています。博多港は京浜・阪神と比べてもそんなに大きくなく、そんな中規模の港でさえ、こんなにも損失があるのです。全国23の国際貿易港の被害総額を考えると、手放しではいられないのはお分かりになるかと思います。また、港湾における荷物の遅延が発生すると、陸上のトラック輸送や貨物列車輸送にも遅延が波及してしまいます。海上輸送で遅れた分は、他の運送業者が埋め合わせをするしかなく、日本の物流全体が大きな損失を被ってしまうのです。
更に、水深の浅さは、海外の大型コンテナ船からの荷物を日本国内で積み替えることができず、国際規格に対応した海外の深い港を使う必要性を引き起こします。この荷物を積み替える役割を担う港のことを「ハブ港」と呼びます。通常の港よりも数多くの港へ、航路を確保しているため、世界中から多くの船が立ち寄り、貨物の積み替えを主な目的として利用されています。日本が利用しているハブ港は、主に釜山や上海をはじめとした、アジアのハブ港です。そして、そこでは、わざわざ日本向けに一回り小さなコンテナ船へ貨物を積み替え、輸送しています。現在、我が国の国際物流の99%は海上輸送が担っています。そのうち、海外のハブ港を経由しているのは、日米間の航路に限って見ても4割にも達しています。こうした海外のハブ港に依存していることによっても深刻な問題が発生します。それは、安全保障上の問題です。ハブ港の混雑状況もありますが、海外での積み替え作業によって、日本に荷物が来るまで、数日から2週間のロスが生じるといいます。これは、横浜市港湾局の方にインタビューをして、直接聞いた話ですが、海外ハブ港への依存によって、経済安全保障が脅かされることや、他国の政情不安で日本に荷物が来ないこともあったというのです。政情不安というと、国家間の外交問題を想像する方が多いと思いますが、港湾労働者のストライキといった相対的に小さな政情不安でさえも、時に物流を揺るがすのです。
沖待ち問題と海外ハブ港依存の問題は、”日本の港の浅さ”とその規模の小ささが問題である顕著な例であります。現在、コンテナ船の大型化によって国際規格として必要とされている港の水深というのは、18メートルから20メートルと言われています。例えば、水深18メートルの港では、国際規格のコンテナを約18000個積んだ船が入港できるのに対し、2メートル浅くなった水深16メートルの港では、コンテナを約8000個積んだ船しか入港できません。つまり、たった2メートルの水深の違いで、2倍以上も一隻で輸送できる量が変わってくるのです。
港湾とは、国民生活と産業活動を支える重要な物流の基盤です。港になじみのある方は少ないと思います。繰り返しにはなりますが、日本と海外を行き来するモノの大半が港を介しているわけです。見えないところから私たちの生活を支えてくれる海上輸送。この重要性は、この先も揺らぐことはないでしょう。だからこそ、今の小さな港、これを変えていく必要があるのではないでしょうか。
そこで、わたくしは”掘削を中心とした港湾の再整備”の必要性を主張します。
港湾の掘削というのは、港の縦の小ささを克服するための施策です。内容はいたって単純。国際規格、いわゆる大型船舶を受け入れられる規模にまで、港湾を深くするのです。これにより、今まで海外のハブ港に立ち寄らされていた大型コンテナ船が直接入港できるようになり、入港する船舶数の削減や、それによる沖待ちの解消が見込まれます。ただし、海底を掘削するという都合上、どこでもできるとは限りません。候補地となる港湾を対象とした地質調査を行い、その段階で、問題なく掘削できるという港湾を選定し、環境に配慮した掘削を行います。また、掘削によって、深くなった港にはこれまでより大きな船が入ってくるので、一隻当たりに必要な岸壁やクレーンもより必要ですから、必然的に横の拡大も行うことになります。港の拡張というのは漁業者をはじめとした周辺の様々な産業の兼ね合いが必要だからこそ、事業者任せにはできません。国策として推進していくことにはこうした意図があります。
現在国土交通省が推進している貨物輸送網を拡大するという政策においてはAIやIoTを活用した「ソフト面」の物流改革が重視されているのが現状です。しかし、いくら最新技術を導入したとて、それを載せる「ハード」、つまり「設備面の拡充」が足りなければいずれ頭打ちとなってしまうでしょう。アジアから南北アメリカにまたがる環太平洋経済圏に属している日本の地理的な利点を活かして国際的に強い港湾を取り戻していく意義も鑑みれば、コンテナ船の大型化や取り扱い貨物量の増大などに対応した深くて大きい港を早いうちから整備することは必要不可欠であると言えるのです。
わずか20年ほど前までは、日本の港湾は世界トップクラスの輝きを放っていました。しかし、かつての政府は港の数を増やすのみで、港湾開発において船舶大型化への設備対応に出遅れてしまい、今やその威光はついえかけています。繰り返しにはなりますが、物流というのは、私たちの暮らしを間接的に支えています。災害から、ライフラインを繋ぎ、命と財産を防護する重要な役割をも担っています。その生殺与奪の権を海外が握っている状況をどうにか変えたいのです。ここで諦めてはいけないんです。海上物流の需要はこの20年間で変わっていません。むしろ増えてすらいます。港の数ではなく、港の大きさで勝負する。ゆくゆくは、国際競争力のある港湾を日本に取り戻す。港町で育った私は、それを切に願う。

