第 46 回大隈杯争奪雄弁大会「君たちはどう生きるか」 |
【導入】
去年のある日、僕は映画 アベンジャーズ/エンドゲーム を見ていました。この作品は、超大人気作品のアベンジャーズシリーズの完結作。
興行収入はなんと、全世界第二位という大ヒットを記録しました。
しかし、この作品、かなり長いんです。
その尺なんと3時間。他の映画と世界線が共通しているマーベル作品だからこそ、アベンジャーズ前作にはいなかったキャラクターが、何食わぬ顔でアイアンマンと共闘していたり、マイティ・ソーの武器がハンマーじゃなくなっていたり!
もう頭がついていかなかった。そして3時間の長丁場にも耐えきれない僕の集中力。
僕は「アレ」に手を出してしまったのです。
それは、倍速視聴です。僕は アベンジャーズ/エンドゲームを途中から倍速で視聴してしまったのです。
まあ、面白かったんですけどね。
しかし、ここで僕の中にひとつのモヤモヤができました。
それは、「倍速視聴で見た自分は、この映画を見た。と言えるのか?」ということです。
僕は元々映画が好きでした。だから、映画を作り手が意図したように観れなかった、と歯がゆい気分になりました。
映画のサブスクも広がり、好きなタイミングや視聴方法で、映画を見ることができるようになった昨今。
好きな映画を好きなように見ているのに、生まれてくる釈然としない思い。
しかし、自分で目的を持って映画を見れば、それもすっきりするのではないでしょうか。
そこで今日は、倍速視聴をしている人、そうでない人に疑問を投げかけ、私と同じような思いをしている人たちに指針を提示したいと思います!
【現状分析】
ところで、皆さんは倍速視聴についてどう思いますか?
中には倍速視聴常習犯の方もいるのではないでしょうか。
これは映像作品ではなく、授業の話なんですが、2022年、都の西北にあるあの有名な講堂が紺碧の空に映える某大学の商学部では、複数の授業動画を同時に視聴したことが不正に当たるとして、受講者100人ほどの単位を認定しないと話題になりました。
そしてその中には、倍速といっても32倍速という驚きの速度で再生し、同時視聴をされていた方もいらっしゃったそうです。
学生たちの、時間を効率的に使おうという意識の高さ、そしてそれを実現させてくれる大学のシステム、この大学、やはり見上げるばかりです。
ご存じの通り、倍速視聴とは、動画や映像の再生速度を速くして視聴することです。
倍速視聴をすることで、効率よくより多くの作品を視聴することができます。そして、多くの人がこの倍速視聴を活用しているのです。
実際に、マーケティング機関であるSHIBUYA109ラボによると、動画配信のサブスクに登録している19〜25歳の若者のうち48.9%もの人が倍速視聴をしているのだそうです。
また、「動画の倍速視聴に関する調査」によると、20代は他の年代に比べ倍速視聴経験者の割合が高く、特に20代男性は54.5%と半数以上が動画を倍速で視聴したことがあるのだそうです。
この倍速視聴という新しい潮流に関してネット上では、賛成派と反対派の、2つの立場での熱い討論が日々交わされています。
映画配給会社OBの稲田豊史さんは彼の著書「映画を早送りで見る人たち」の中で、実際に倍速視聴している人の意見としては、「内容の良し悪しに関わらず、普通の速さで見てしまうと時間を浪費した気分になるから」、「二時間も集中して観れないから」、「視聴すべき作品が多く、時間がかかるから」などの理由を挙げています。
逆に反対派の意見としては、ダイヤモンドオンラインの記事によると「作り手の意図した表現が消えてしまうから」「芸術はそういうものではないから」などがあります。
また、俳優の堺雅人さんは、倍速でドラマを視聴している人が増えていることにショックを受け、「倍速で観られてたまるか」という思いで早口で演じたこともあったと語っています。
これを取り上げた記事には2.4万件のリツイートと17万件のいいねが付き、大きな反響を呼びました。
これらをまとめると、賛成派が倍速視聴をする目的は「情報収集」、それに対して反対派が元の速さでの視聴をする目的は「鑑賞」といったところでしょうか。
しかし、この賛成派も反対派も、それぞれ気づかないうちに、とある価値観に縛られているのではないでしょうか?
その価値観とは、賛成派は「タイムパフォーマンスの追求を第一とする価値観」、反対派は「作り手の意図や表現を味わうことを第一とする価値観」です。
【原因分析】
これらの価値観に縛られてしまっている人々は、なぜこのように縛られているのでしょうか?それぞれ説明していきます。
まず第一に、そもそも、現代社会はコンテンツ過多と言われてますよね。
コンテンツとは、インターネットやテレビ、紙などのメディアを通して伝えられる情報です。現代社会ではコンテンツの数が莫大で、ひとりひとりが好きな作品と流行が分離しています。昔のように『ドリフの大爆笑』を見ていれば流行についていけた時代とは違うのです。
そんな現代を象徴する言葉が 『キメハラ』 でしょう。
この中で視聴した方も多いと思うのですが、『鬼滅の刃』というテレビアニメ、大ヒットしましたよね?社会における鬼滅ブームがヒートアップすることで、「鬼滅の刃まだ見てないの?」と押し付けてくる行為『キメハラ』が行われ、『鬼滅の刃』が「見なければいけない作品」 になりました。
見たい作品とは別に見なければならない作品を見る。そのために効率よく映像作品を見ることができる視聴方法が必要不可欠になってしまいました。
つまり、「倍速視聴による効率向上が第一」という価値観に縛られている人たちは、元の速さで見ることで時間の無駄だと感じてしまうのです。
また、倍速視聴の原因は何も、コンテンツ過多だけではありません。
3、4年の先輩方が苦労していらっしゃる就活の面接などが顕著な例ですが、この現代、人とは違う自分、つまりは、個性を持つことが重視されます。
そのため、自分を他人と差別化する特定の分野を求めて、より多くの映像コンテンツを見ようとする動きが生まれます。これにも原因の一端があるのでしょう。
一方で、「元の速さ、作者の意図した形で見ることが第一」という価値観に縛られている人たちは、倍速視聴では「作り手の意図や演者の表現をないがしろにしてしまわないだろうか?」という疑念、あるいは「ないがしろにしてしまう」という確信を持っています。
アベンジャーズを倍速視聴し罪悪感を感じた僕のように、彼らは「映画とは総合芸術で、倍速視聴によって情報が欠けてしまった状態のものを享受するわけにはいかない」という考えを持っています。
だから元の速さで見ることにこだわってしまうのです。その結果、コミュニケーションのために大まかな構造さえ把握できればよい流行りの作品も、元の速さ以外で見ることに抵抗が生まれ、苦しんでいます。
【伝えたい価値】
でもちょっとまってください!
そもそも、映像は「芸術作品」と、「娯楽コンテンツ」の二つの側面を持つ存在なのです。それなのに一方の見方に固執し、倍速視聴に賛成か反対かと視聴方法について議論が起こること自体おかしいんです。映像を情報収集と結論付け、倍速視聴でただただ消化するだけという見方をすることも、逆にずっと元の速さにこだわらなければならないという見方をすることも、どちらももったいないことです。
そこで重要になるのは、気づかないうちの呪縛から脱却することです。
これに必要なことは、「自分はこの作品に『情報収集』か『鑑賞』か、どちらを求めているのかを明確に自覚する」ということです。
目的を自分の中で割り切ることができれば、「この作品を見たと言えるのか?」という自問自答に陥ることはなくなります。
また、視聴している途中で起きる目的の変化にも対応できるでしょう。情報収集で見ていたが、途中から面白いと感じて鑑賞目的で元の速度で見てみたり。その逆で、鑑賞のつもりで見ていたが、あまり面白いと感じられず情報収集にシフトして倍速で見てみたり。もっと言うなら、倍速視聴で一度見た後に元の速さでもう一度見ることもいいかもしれません。
このような、小さなアプローチから始めることで、少しずつこの「縛り」から脱却することができます。
【締め】
今回は、映像作品の倍速視聴を主題として取り上げお話してきましたが、「目的を意識して行動しよう」というのはこれだけに限らない話だと思います。
現代社会の荒波の中で、自分の信念を貫き通すことは並大抵の人間ではできないことでしょう。
信念を貫き通すというのはそれもまた素晴らしいことではありますが、ふと、一度立ち止まって、対立する価値観から自らの価値観を顧みて、それはそれ、これはこれと線引きを行い前を向いていく。
それが多くの人が、より幸せに生きるために必要なのではないでしょうか?
話題になった宮崎駿監督の映画「君たちはどう生きるか」。
あの作品もそのうち動画配信サイトで視聴できる日が来るかもしれません。
それをみなさんはどう視聴しますか?
君たちはどう生きるか?君たちはどう見るか?
自分に合った視聴方法で、よりよい映像作品ライフを。ご清聴ありがとうございました。

